千葉で生まれ育ち地元企業に7年半勤めた青年はある日我に返ります。
ーこのままではマズい…。目の前の景色を変えないと、これ以上成長がないのではないか?ー
そんな時、たまたま立ち寄った街で奇跡的な展開に遭遇。尾道に移住した彼は今何を思うのか?
松田侑樹(まつだゆうき)
1994年生まれ/千葉県流山市出身/尾道造酢株式会社勤務
2021年、千葉県から尾道市へIターン移住。座右の銘は「体験に勝る知識なし」
”休日は爆睡”の千葉時代
ーー松田さんは前職までを地元の千葉県で過ごされていたんですよね。どんなきっかけで移住を考えたんですか?移住に至るまでの経緯を聞かせてください。
前職は地元の食品関係企業に勤めていました。
仕事量が多く、残業する事も日常的だったので休日は勿論爆睡。
気の知れた友達と飲みに…なんて事もままならない日々を過ごしていました。
やりがいのある仕事で新卒から7年半勤めたのですが、人間関係のトラブルに悩んでいた事もあり、自分の中で”やり切った”と思えたタイミングで退職する事を決めました。
移住に関しては元々旅が好きだったので、”いつか地元を出て自分の好きな街で生活がしてみたい”という想いは以前からあったんです。
ーー色々な街を旅された中で、移住先を尾道に決めた理由は何だったのでしょうか?
初めて尾道へ来たのは20代前半の頃。広島市内に来ていて偶然立ち寄ったんです。
その時は、千光寺、商店街、山手の路地、しまなみ街道…王道観光コースを巡りました。多様な景色がぎゅっと詰まった”飽きない街”だなって思いました。
でも、何よりも僕が一番惹きつけられたのは尾道で出会った人々だったんですよね。
ふらっと立ち寄ったお店で地元の人達とお話させていただいた時なんか、「昔からの仲間」みたいな感じで皆さん接してくれるんですよ。
「明日釣りいく人ー」みたいな感じで(笑)。
とにかく居心地が良くて「また絶対に戻って来たい」って思いました。因みにその後、本当に釣りに連れて行ってもらいました。
居酒屋での偶然と尾道移住
ーーそこから数年経ち、移住に至るわけですね。
そうです。尾道へは最初の訪問から数回遊びに来ていたんですが、退職が決まった後の有休消化中にも尾道を訪れていました。
その際に立ち寄った居酒屋で隣になった方と意気投合して、結構深くお話しさせていただく機会があったんです。
そうしたら、その方が尾道で何店舗も飲食店を運営している企業の代表の方で「尾道来ちゃいなよ」って。
その日の夜には尾道造酢の現在の上司を紹介していただき、翌日には会社見学までさせていただきました。
ーーすごい展開ですね!
たまたま隣に座った旅行者にそこまでしてくださるなんて、考えられます?
でも、尾道ってこういう事が起こる街なんですよ。
その方へは今でも感謝しかありません。
この出来事があって、それまで漠然としていた僕の尾道移住が一気に現実的になったんです。
環境を変えれば変化が起きる
ーーとはいえ長く住み慣れた地元を離れて、単身知らない街へ移住する事に不安はありませんでしたか?地元の友達ともますます会いづらくなってしまうわけで。
全ったくありませんでした。
ーーおぉ!食い気味の即答でしたね(笑)。
今は、ビデオ通話アプリ、SNS、チャット、オンラインゲームなど、友人との連絡手段はいくらでもあるじゃないですか。
それに色々な街を旅する中で、自分自身の状況を変えるには移動が一番の近道だなって思ったんですよね。
同じ場所にいて、行動パターンを変えるより、行動パターンが変わらなかったとしても、身を置く場所を変える方が明らかに変化が起こるって僕は思うんです。
都会と違うインフラ事情
ーーそしていよいよ尾道への移住を果たすわけですね。お住まいはどうやって探されましたか?
移住と聞くと古民家を改装したり、自然豊かな場所に住んでいたりを想像されると思んですが、僕は尾道の隣駅の東尾道と言う街でアパート暮らしをしていて、千葉にいた頃と比べて住環境の変化はほぼありません。
家は「賃貸情報サイト」で探しました。
本当は尾道市街地で探していたんですが、直ぐに入居出来て条件の合う物件が見つからなかったのと、古民家を借りてDIYを…というパワーもなかったので。
ーー東尾道は大手チェーン店なんかも立ち並ぶ街ですが、千葉と変わらない都会的な生活をされているんですね。
ただ、電車で1駅の場所なので尾道へ通勤するのも便利だな、と思って決めたんですが、駅と駅の距離が都会の感覚とは違ってました…
半年間は頑張って自転車で通勤していましたが、耐えられなくなり車を購入しました。
その他のインフラで都会との違いを感じたことはほぼ無いですが、電車事情はかなり大きく違います。
本数の少なさと、駅間の距離の長さについては都会から移住を考えている方は注意が必要なポイントかもしれませんね。
移住者として初採用、老舗造酢所での仕事
ーー松田さんがお勤めの尾道造酢といえば尾道市民には身近な企業ですが、お仕事内容を聞かせてください。
尾道造酢は創業440年以上の老舗造酢所で、僕は酢の製造業務に携わっています。
「いちじく酢」や「だいだい酢」など、地元特産品を使った酢造りにも力を入れていて、地域との繋がりが深い会社なので、製造側の僕なんかも生産者さんやお客様の声を直接聞ける機会が多いんです。
お客様の「美味しかったよ!」の声が聞けるのは前職ではない経験で、最高にモチベーションが上がります。
ーー地元の方が多く勤める企業へ移住者として初採用だったとの事ですが、職場環境にはすぐに馴染めましたか?
僕も最初は「よそ者だし、受け入れてもらえないんじゃないか」って不安でした。
ですが、皆さん温かく迎え入れてくださって、「よく来てくれたね」と、仕事もゼロから丁寧に教えてくださいました。
「さげる」は「あげる」?言葉の違いで戸惑うことも
ーー前職も食品メーカーという点で、今までのキャリアを活かせている場面も多いのではないですか?
そう思われるかもしれませんが、製品が違うと製造工程も全く異なるので、最初はミスをして迷惑をかけてしまうことも多々ありました。
あと、言葉の違いで戸惑うことも。
例えば、尾道では「持ち上げる」ことを「さげる」って言うんですが、今までの感覚からすると「さげる」と「上げる」では真逆なんですよね。作業中咄嗟に「それ、さげて」と言われると混乱してました。
ですが、そんな時でも職場の方々が「気にしない気にしない!!」「今に慣れるから大丈夫」っていつもフォローしてくださって、精神的にもとても助けられました。
移住したっていづれは日常
ーー移住して、プライベートの時間は充実しましたか?
それはもう、自分の時間をしっかり取れるようになりました!ただ、前職の時にはあんなにも夢見ていた”自分の時間”でしたが、手に入れてしまうと…
勿論、最初のうちは存分に謳歌していたんですよ。ですが、最近では結局時間を持て余しています。
結果、家に籠って土曜の夜なのに地元千葉の友達とオンラインゲームをするという始末です。
ーーなるほど。「釣った魚に餌はやらない」と言う事ですね。
そ、それは違います。違い…ませんか?
でも、移住してそれが日常になるとこんなもんですよ。いつまでもテンション高くはいられません(笑)。
ただ、気の置けない友人と遠く離れていても繋がれるのは僕にとってとても大切な時間で、テクノロジーの発展に感謝しています。
この時間がないと、知らない地での生活を継続できていないかも知れません。
ーー確かに。ゲームに限らず、リアルタイムで繋がれるツールには事欠かないですもんね。
パートナーやファミリーで移住されるとまた違うのかもしれませんが、僕の場合は独り身なのでなおさらなのかもしれませんね。
「尾道・新開」スナックのすすめ
ーー尾道のお気に入りの場所はどこですか?
新開のとあるスナックです。
新開は、尾道駅から続く尾道商店街を抜けた辺りに広がる尾道市最大の歓楽街で、尾道造酢も新開にあります。
最近はおしゃれなカフェなんかもできて昼間は観光客の行列が出来ているお店もありますが、夜は割と地元のお客さんで賑わっています。
そのスナックには移住前からお邪魔していて、地元の方とのご縁を沢山いただきました。
スナックってお店に居合わせたお客さん同士で話が盛り上がったりするのが醍醐味なんですよね。
僕にとっては地元の方々との繋がりが持てる貴重な場です。
移住2年目にして思う本音
ーーぶっちゃけ地元に帰りたいって思うことありますか?
無いですね。一度も。
と、いうか、まだ自分が納得できる”何か”を残せていないんでこのままでは帰れません。
ーー今後の展望を聞かせてください。
仕事面に関しては勤めて2年、やっと職場での自分の働きにも自信が持てるようになってきたので、採用してくださった今の会社に何かしらの貢献をしたい想いが強いです。
プライベート面では、これはどこにいても言えることですが、移住してもいい面と悪い面の両面があるんですよね。
でも悪い面だけをフォーカスして不貞腐れたりはしたくないなって思っています。どうせならその両面を楽しんでいきたいですね。
聞き手:松崎敦史/ANCHER編集長
松田さんおすすめのお店
スナックSugar(シュガー)
尾道の繁華街、新開にあるスナック。ママさんには移住前からお世話になっていて、沢山の人とのご縁をいただいたお店です。良心的価格で、楽しく、安心してお酒を楽しめます。
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