移住者

妻が愛する尾道へ、流れに身を任せて移住したリモートワーカーの日常

新卒で大企業に入社会社でのポジションも確立し、俗にいう「終身雇用の安定感」を謳歌していた日々から一転。奥様の強い想いから縁もゆかりもない尾道へ突如移住した上島さん。移住して変わった働き方やライフスタイルについて聞きました。

上島稔(かみしまみのる)

1980年生まれ/東京都日野市出身/コンサルティング会社勤務。2021年8月、家族三人で東京から尾道へ移住。趣味のドラムの腕前はプロ並み。

正直、移住も転職もしたくなかった

 

ーー上島さんは進学、就職とずっと地元である東京で過ごされ、安定企業に勤められていたわけですが、尾道へ移住した経緯を聞かせてください。

うーん、、一言で言うと、”妻の尾道愛 × コロナ”ですね。

私は進学、就職、結婚と、ずっと地元で正直何の不満もなく過ごしていたんですが、妻は毎年足繁く尾道に通う程、尾道LOVEな人。結婚前から年に何度も尾道を訪れていました。

私も23回一緒に来た事があり、「いい街だな」とは思いましたが、こんなに早く移住する事になるとは正直考えてもみませんでした。隠居後、夫婦二人でゆったり生活するにはいい街かもなぁ、くらいには思っていましたけどね。

ーーそんな中、コロナ禍となり変化があったんですね。

当時勤めていた会社でも、私を含めた殆どの社員がリモートワークに切り替わりました。

自宅で冷蔵庫と向き合う日々が始まったんです。

ーー…冷蔵庫…ですか?

ダイニングテーブルで仕事をしていたので、顔を上げるとそこには冷蔵庫があったんですよ。

そんな状況が思いのほか続いて、引っ越しも考えましたが、当時はいつコロナが終息するのかなど、社会全体が先行き不透明な状況だったじゃないですか。

なので、なかなかスイッチが入らず…

ところが以前から「尾道に移住したいけど出来ない」というストレスを感じていた妻の方のスイッチが入ったんですね。

ーー長年勤めた会社を辞めて移住をする決断は簡単ではないと思うのですが、何が決め手となったんですか?

私自身は正直、移住も転職もしたくありませんでしたが、妻の想いや娘の育つ環境など、家族全体の未来を考えた時に、都会がいいのか、それとも地方がいいのか、答えが出なくて…

ぼんやり考える日々が続いたんですが、ある日ふと、尾道へ移住する事で妻の長年の「尾道に住めないストレス」が解消できるならそれだけで十分かも、と思えたんです。

ーー家族移住の場合は特に、移住先での新居探しには時間とコストがかかりますよね。苦戦される方も多い印象ですが、上島さんはどのように進められましたか?

もう、それはそれは早かったですよ。

直ぐに妻が単身尾道へ乗り込み、家、娘の幼稚園などを決めてきました。

私は妻から次々と渡される契約書などの書類に無心で押印するのみ。数ヶ月後には尾道へ移住していました。

写真左/東京の自宅にて。コロナ自粛期間中に庭で娘と気分転換
写真右/移住した尾道向島の入り口。東京とのギャップにしばらくは朝起きた瞬間の混乱があったそう

ーーお仕事はどうされたんですか?

当時勤めていた会社に、「尾道へ移住しようと思うので、働き方をフルリモートに変更できないか?」と相談したところ、社内がザワつきました(笑)。

3年後には対応できる様になるだろうから、それまで待てないか?とも言ってもらったんですが、ここまで来て妻をあと3年待たすわけにはいかないなと、転職することにしたんです。

転職先はフルリモートに対応している東京のコンサルティング会社で、前職同様、DXコンサルタントとして勤務しています。

毎日が小旅行気分。渡船で通勤する贅沢

ーーリモートワーカーの1日ってどんな感じなんですか?

リモートワークは毎日会社に出社していた頃と比べても、何の不自由もないですね。

人や職種もよると思いますが、私の場合は無駄が無い分、むしろ生産性は上がっていますね。

それに何より、尾道のこの環境で仕事をする毎日は最高でしかないです。

ーー最高なんですか?移住前と随分心境の変化があったんですね。

私は、尾道駅のある”本土”の対岸にある『向島』に住んでいて、本土と向島の間は渡船が10分間隔で行き来しているんですが、その渡船がまた最高で!

移住して2年、ほぼ毎日乗っていますが天気のいい日は勿論、雨の日や夜なんかも良いんですよね。渡船に乗りたくて、仕事は本土側にあるコワーキングスペースで行っています。

東京にいた時は通勤の満員電車が”仕事スイッチ”となっていましたが、それが今は渡船に変わりました

おだやかな尾道水道や、対岸の美しい街並みを眺めながら入る”仕事スイッチ”は、満員電車のそれとは全く別物なんです。

朝、コワーキングへ向かう渡船の上で。柔らかい潮風を感じながら徐々に仕事モードに切り替わる感覚は最・高!!

上島さんの平日のスケジュール

8:45 家を出て、渡船で”本土”側にあるコワーキングへ向かう

8:55 コワーキングに到着し、仕事開始

午前中、クライアントとのミーティングを3本。その他、社内の仕事やクライアントワークを行う。

12:00 お昼休憩

昼食はコワーキングで知り合った気の合う友人達と行きつけのお店へ。いくつかある行きつけのお店をローテーションで回っている。

13:00 仕事再開

午後、クライアントミーティングを3本。その他、社内ミーティングやクライアントワーク、その時にやるべき仕事を行う。

18:00 業、渡船に乗って帰宅

と、これは家に真っぐ帰宅する日のルーティーン。週の半分は仕事後に友人と飲みに出かけているそう。

写真左/コワーキングの上島さんのデスクの上はパソコンとモニターが渋滞。いつも忙しそう。
写真右/お昼休憩は行きつけのお店で。お店の方との会話も楽しみの一つ

写真左/目の前に尾道水道が広がるコワーキングのデッキで小休憩。”ハンモック×尾道水道”は贅沢の極み
写真右/帰りの渡船から眺める尾道の街並み。オレンジ色の街灯がいい仕事してる

古民家購入のきっかけは ”猫” !?

ーーそう言えば最近、古民家を購入されたんですよね?向島の中でも人気のエリアに購入されたそうですが、どうやって見つけたんですか?

尾道って移住者も多いからか、家を探している人が常に結構多いんですよ。

私ら家族も同じで、まずは賃貸に住みながら探していたんですけどなかなか無くて、最近は気長に(家との)出会いを待つスタイルをとっていました。

ーー確かに。争奪戦じゃないですけど家を探されている方、本当に多いですよね。

で、最近妻が、野良猫のお世話を地域の方々とする中で交流が深まり、「あそこの家、空いているみたいだけど、売りに出す予定があるか家主さんに聞いてみようか?」との情報が回ってきたそうです。

その後、家主さんと繋げていただき、気に入ったので購入させてもらう事になりました。

写真左/購入した古民家。家主さんは「更地にせずに住んでくれる人が現れなければ、売るのをやめようか」と考えていたそう。
写真右/尾道の猫たちは、地域の皆に大切に見守られている

人との距離感が心地い街

ーー近所の方との距離感が親戚みたいですね。

尾道の人は面倒見がいい」ってよく言われるじゃないですか。

まさに!って感じですよね(笑)。

ーー東京では近所付き合いなど、地域との関わりはありましたか?

東京では挨拶を交わす程度で地域との関わりはゼロでした。そもそも自分の中で”地域”という感覚は無かった様に思います。それが尾道ではランチに入った店の店主さんが「今日、娘ちゃん早退したんだって?大丈夫なん?」と、妻のSNSを見て心配してくれたり、なんて事も日常的です。

かと言って決して土足で踏み込んでくる感じの人っていなくて、おっしゃる通り、地域全体が親戚っぽいというか、”思いやりに満ちた距離感”なんです。

尾道移住を検討中のあなたへアドバイス

ーーこれから尾道への移住を考えている(又は移住したての)ANCHER読者にアドバイスいただける事があればお願いします。

アドバイスかぁ、うーん、沢山あるんだけど、、

一番のアドバイスはやはり、「渡船の定期券購入はマストで!」ですかね。

ーー…え?…ですが、皆さん向島に住むとは限らな…

いえ!そこはマストで!!a.s.a.p.で!!

定期券さえあれば、一日何往復でも好きなだけ料金を気にせず渡船に乗れるんです。

是非、皆さんには早朝、薄曇り、夕方、春夏秋冬と様々な表情の尾道水道を体験していただきたいです。

ーー…薄曇りも、、ですか?

最高ですよ!!

ーー渡船が最高なのは分かります。私も好きなんで。ただ……..

渡船の定期券を見せられた(困)

ーーわ、分かり…ました。アドバイスありがとうございます、、

写真左/向島と尾道本土を結ぶ渡船の運賃表
写真右/同じく渡船の運行時間表(どちらも2023.6月現在、おのみち渡し船(株)より)

やっぱり、移住したくなかった?

ーーでは気を取り直して、尾道移住を加速させたいメディアとして気になる事があるんですが、最後に聞いてもいいですか?

勿論、何でも聞いて下さい。

ーー上島さん、「尾道へは妻に無理矢理連れてこられた」みたいな事言ってますけど、結論「移住最高!尾道大好き!!」ってなってますよね?絶対。

いやぁ〜、見られてるなぁ。

でも、「好き」って言っちゃったら、負けだよね?

 

聞き手:さとうしおり/ANCHER編集部

 

上島さんおすすめのお店

ステーキ瀬里奈(尾道新浜店)

「元気をつけたい時に時々行きます。尾道市街地から少し離れた所にあるので、わざわざ行く感じに特別感がありますし、ステーキ美味しいんですよ。ボリュームがあるので是非お腹を空かせて行ってみて下さい。」

 

この記事を書いた人

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さとうしおりANCHER編集部

2021年、関東から尾道へ移住。東京では企業ブランディングやマーケティングを専門としていた完全な理系。移住を期に兼ねてから憧れだったライター業に挑戦しているが、活字を見ると睡魔に襲われる傾向あり。