移住者

航海士が築70年の古民家をリノベーション。尾道でDIYする理想のライフスタイル
尾道の山手にある築70年の古民家をリノベーションして住む「ナオ船長」こと松本さん。住居、コーヒーショップ…すべてをDIYしてきた舞台裏をお聞きしました。

松本 直也(まつもと なおや)

1989年富山県生まれ/埼玉県育ち
AIRSHIP COFFEE店主/航海士・機関士
2019年尾道へIターン移住

国内海外の2拠点を構想。一目惚れした尾道へ

ーー松本さんは若い頃から尾道に興味があったそうですね。
もともと思春期のころから尾道に興味があって、いつかは尾道に住んでみたいと思っていました。

ーーでは、尾道に興味をもったきっかけは?
ずっと愛読していた『ぱすてる』という漫画です。尾道市を舞台にしていたので、尾道に興味をもったんです。

ーー移住する前に尾道を訪れたことはありましたか?
はい!『ぱすてる』の聖地巡礼がしたくて、埼玉から青春18切符を使って尾道に来たのはいい思い出です。

実際に来てみると、海、山、島がすぐ目の前にあって、商店街や山手エリアのノスタルジックな街並みに一目惚れしてしまいました。

それで、いつかは尾道に住みたいという気持ちが強くなりました。

航海士をお休みして30カ国を巡る旅へ

「航海士として勤務中に飲むコーヒーは格別ですよ」

ーー尾道へ移住するまで仕事は何をしていましたか?
内航船の航海士・機関士として長年働いていました。私は海のない埼玉県育ちなので、海へのあこがれが強く、海の仕事を選びました。

ーー航海士・機関士としての仕事はいつまで?
30歳になる前くらいまでですね。仕事で船に乗っているときに、ラジオから車の自動運転の話が流れてきました。そのとき、「船の世界にも、いずれ自動運転の波が来るんだろう」と、フッと思ったんです。

それで休日に軽い気持ちで、プログラミングスクールの体験会に参加してみました。すると、そこでプログラミングのおもしろさに気付き、夢中になったんです。それがきっかけで、ITの仕事に気持ちが向いていきました。

海外旅中のラオスにて

ーーその後ITの技術や知識を学んだと。
はい。タイのバンコクにある日本人向けのプログラミングスクールに通って勉強しました。卒業後、フリーランスとしてウェブ関係の仕事をしながら、世界各国を巡ることにしました。インターネット環境さえあれば、どこでも仕事ができたので。

ーー海外へ目を向けたのはなぜ?
実は将来的に、国内と国外の2拠点生活を視野に入れていたんです。国内の拠点は、航海士の仕事で日本の様々な港を訪れましたが、その中でもやはり一目惚れした尾道が第一候補でした。そして海外の拠点の候補地を探す目的で、海外を巡ることにしたんです。

アジアから欧州あたりを約一年かけて約30か国巡りまして、ジョージア・ハンガリー・オランダと候補地が絞られたのでいったん帰国することにしました。

ーーそれで、帰国後の動きは?
帰国したらすぐ、国内拠点の第一候補・尾道で家探しを行うべく、尾道を訪れました。それが2019年9月。現在の家と出会い、そのまま尾道に住んでいます。ただそのあとに新型コロナが流行し、海外の拠点については先延ばしになりました。

築70年の古民家をリノベーション

ーー松本さんは尾道の山手地区にある築70年の古民家(上写真)に住んでいるそうですが、どのように物件を探されたのですか?
尾道に来てから空き家バンクを活用したり、街中をいろいろ歩き回ったりしながら物件を探していました。時間をかけて、30軒以上は見ましたね。

その間、知人の家に泊まらせてもらったり、ゲストハウスに泊まったりしていました。物件探しをしながら、尾道のいろんなお店に顔を出したのですが、そこで情報をいただくことも多かったです。そのようにコネクションが広がっていく中で前所有者の方を紹介され、現在の物件に出会いました。

ーー物件は購入されたのですか?
建物は譲り受けて私の名義になっていますが、土地はお寺の所有になるので、借料を支払っています。

前所有者の方は建物を譲り受けてくれる人を探していましたが、いきなり譲り受けるのはリスクがあったので、一年間賃貸として住まわせてもらってから判断させて欲しいと交渉したんです。そして一年通して実際に住んでみて、とても気に入ったので譲り受けました。

修繕前の離れ(左)と居間(右)

ーー家は築70年とのことで長年空き家だったとなれば、荒れ方や痛み方が相当激しかったのでは?
そうなんです、かなりガタが来ていましたし庭などは草木がボーボーで家に入れない状態でしたよ笑。少しずつですが、自分で整備したり修繕しながら住める状態にしていきました。

ーー自分でリフォームしたのですか!?
はい。これは、機関士としての経験が活きました。船は海の上を航行するので、故障などがあっても業者を呼べません。だから、自分でいろいろ修繕しないといけないんです。

なので古民家の修繕も、自分でなんとかできました。トイレも、汲み取り型から簡易水洗型に自分でリフォームしました(下写真)!

古民家リノベのポイント

ーーすごい笑。住める状態にするまでには相当大変でしたよね?
2〜3か月は、家の修繕作業ばかりしていました。でも、時間はかかりましたがむしろ楽しかったです。

大変だったのは、資材の運搬ですね。家が斜面の中腹にあるので、道が狭くて車が近くまで入れません。

なので木材や砂利などをホームセンターで買ったあと、軽トラックを借りて近くまで運びました。そしてバイクや台車、あるいは背中に担いだりして運んだんです。これは大変でした。

ーー聞くだけで大変そう笑。でも費用はかなり浮いたのでは。
たしかに自分でやったので、費用面でも恩恵は大きかったです。トータルで100万円かかっていないと思います。

古民家修繕のポイントはこだわりすぎないこと。キレイにしよう、オシャレにしようとすると自分でやるのは難しくなります。

風呂場のbefore(左)、after(右)

とりあえず「住めるようにする」とシンプルに考えれば、自分でやれることも多くなります。そして、住むために優先されるところから、順に作業していけばいいんです。知識はインターネットで調べられますし、私のように経験がない人でも慣れれば十分作業できますよ。

ーーところで、現在の家を選んだ決め手は?
ひとつは、母屋と離れに分かれていたこと。移住したらコーヒーショップを開く予定だったので、母屋は居住用、離れは店舗用にできると思いました。もうひとつは、僕の一番の条件であった「尾道水道が見渡せる家」。

自身が乗船していた船が、尾道水道を航海している姿を家から眺めるのが夢だったからです。

離れにコーヒースタンドをオープン

ーー昨年、尾道の山手地区でコーヒースタンド「AIRSHIP COFFEE(エアシップ・コーヒー)」を始めましたが、やってみてどうですか?
店を始める前と比べると、生活の中心がコーヒーになりました。毎日、色々な焙煎、淹れ方を試して「コーヒーの研究」に没頭しています。丹精込めて淹れたコーヒーで、お客さんが「おいしい!」と笑顔になったときがたまらなく嬉しいですね。

ーーなぜ、コーヒーが好きになったのですか?
コーヒーに目覚めたのは、船の仕事をしていたときです。真夜中の航海中に眠気防止対策でコーヒーをよく飲むようになったのがきっかけです。次第に自分でいい豆を探して挽くようになり、ついには船上で焙煎までするようになりました。それが高じて、いつかコーヒーショップをやってみたいと思うようになったんです。

ーー「AIRSHIP」という店名の由来は?
土地の形が船に似ていたこと、私が航海士・機関士であること、店の場所が街を見下ろすような高い場所にあることなどから「AIRSHIP=飛行船」と命名しました。

ーー現在の仕事はコーヒースタンドのみですか?
ほかにも、シェアハウス「AIRSHIP ONOMICHI」の運営、コーヒーに関するウェブメディアの運営、あと実は航海士・機関士としての仕事も不定期におこなっているんです。

尾道移住したい人へメッセージ

ーー尾道に移住して店や事業をしたいという人も多いと思いますが、メッセージはありますか?
事業などやりたいことを「小さく始める」ことですね。いきなり大きなことをすると負担が大きく、失敗したり「これは違うかな」となったときに引き返せません。

尾道に移住する人は、仕事と生活のバランスを取りたくて移住する場合が多いと思います。だから無理なく、状況に合わせて調整や修正ができるように、小さく始めるのがコツですね。

ーー移住の際の物件探しのアドバイスがあれば教えてください。
物件を見たときに「何となくいいな」で決めてしまわないことです。

自分の中で譲れない点を整理し、基準を明確にするのが大切だと思います。そして、その基準を満たす物件が見つかるまで、根気よく探すことが重要です。居候でも賃貸でもいいから尾道にいったん滞在し、時間をかけて納得のいく物件を探すのがいいと思います。

そして積極的に地元に溶け込んでいき、いろいろなお店に顔を出すなどしていくと、コネクションが広がって思わぬところから理想の物件が紹介されることがあるんですよ。

 

AIRSHIP COFFEE

〒722-0033 広島県尾道市東土堂町2-12
営業時間:10:00〜16:00
定休日: 不定休
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松本さんのおすすめのお店 阿部食堂 ガレージコーヒー

住所:広島県尾道市久保2丁目18-7

「尾道の新開地区にある定食店です。私は、週1〜3日くらい行っています。一番のおすすめは豚のしょうが焼き定食。ほかにも丼ものなどもあって、満足できると思います!」

 

この記事を書いた人

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淺野 陽介ライター

取材と写真を得意とするライター。福山市を中心に広島県東部〜岡山県を拠点として活動。グルメ、地元や日本各地の地域史・地理・文化、神社、日本文化などへの関心が高い。
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