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尾道でビジネスはアリですか?テレワークした東京の社長が市長に「本音」を聞いてみた
テレワークなど働き方が大きく変わる中、尾道に目を向ける事業者が増えています。尾道でテレワークを実施した東京のIT社長が、「尾道のビジネス拠点としてのポテンシャル」を尾道市長に聞いてみました。

平谷 祐宏(ひらたに ゆうこう)

1953年生まれ/尾道市出身
尾道市長/2007年初当選し4期連続で市長を務める。

津久井将信(つくいまさのぶ)

1976年生まれ/東京都出身
株式会社ビズアップ代表/東京でロゴ専門のデザイン会社を経営する。

 

※ANCHER編集長の松崎も対談に参加させていただきました

尾道市の街づくりについて

 

社長

尾道は街を歩いていても観光客が多く「観光」のイメージが強いのですが、尾道市はどのような街づくりをされているのですか?

市長

尾道市はとくに観光を意識して街づくりをしてきた訳ではないんです。尾道の「資源」を有効活用したい、という思いでプロジェクトを積み上げてきました。

社長

尾道がもともと持っている資源を生かした結果、観光客が来るようになったと?

市長

例えば「サイクリング」です。2009年のしまなみ海道開通10周年の時に、職員から「自転車はどうでしょう?」と提案があったんです。

当時、東京で自転車のイベントが盛り上がりつつありまして。島づたいにサイクリングができるというのは、世界でも例がないものであったので取り組みをはじめたんです。

社長

今やしまなみ海道は「サイクリストの聖地」と呼ばれていますよね。

市長

そうやって尾道の資源を大切に、積み重ねてきたことが今、ハマった感じになっているんだと思います。

社長

先見の明がおありだったのですね。

 

写真右/生口島の瀬戸田にある宿泊施設「Azumi Setoda」

 

市長

いえ、たくさんの人との関わりがなければできなかったことです。

たとえば瀬戸田の宿泊施設『Azumi Setoda』を作る時、市としては景観がいい場所を提案していたんです。でも、Azumiの関係者の方が「旅の最高の思い出は人との交流です」と言って、(街中にある)旧堀内邸を選ばれました。

松崎

Azumiはかつての豪商の建物を活用されたんですよね。市長としては意外だったと?

市長

えぇー?と僕は驚きました笑。
これまでプロジェクトをやる中で、そういった出会いがいくつもありました。

社長

尾道はどこか他の地方都市とは違うんですよね。「らしさ」が強いというか。新しいものと古いものが共存している。

市長

そうかもしれません。都市化や駅前再開発とは別の街づくりをコツコツとやってきたというイメージでしょうか。

ビジネス拠点としての尾道の可能性

ビズアップのテレワーク拠点となった尾道のコワーキングスペースONOMICHI SHARE

 

社長

尾道でテレワークをしてみて、いつか尾道に拠点をと思っているのですが、県外企業が尾道に移転することをどう思われますか?

市長

もちろん、非常に嬉しいことです。
この間も、ブルーボトルコーヒーなどを手がけた建築家の長坂常さんが、尾道の山手に文化交流施設『LLOVE HOUSE ONOMICHI』をオープンしました。

長坂さんはLOGという宿に滞在中、窓から見えた築110年の家を気に入り、持ち主と交渉して譲り受けたとのことです。

社長

すごい!一目惚れだったんですね。

 

市長

2024年にかけてLLOVE HOUSEには、大使館と連携してオランダから6組のクリエイターが滞在する予定です。

そして、20年日本に暮らしているというオランダ大使館の職員が僕にこんなことを言いました。「私が求めている日本の全てが尾道にある」と。

社長

すごい褒め言葉ですね。

 

市長

そんなことを言われたのははじめてだったので嬉しかったです。

LLOVE HOUSEは車が入らない斜面にあります。車社会ではないという意味で、尾道は「周回遅れの街」と言えるのかもしれません。でも、だからこそ人の心を癒せる街でもあるのです。

尾道の山手地区にあるLLOVE HOUSE ONOMICHI

クリエイターにとって尾道の価値とは

 

社長

今、地方は金太郎飴みたいにロードサイドに大きな店舗できて…それが今の地方の姿じゃないですか。でも、尾道にはチェーン店がないですよね?

市長

特にここ(市街地)はそうです。チェーン店はマーケティングしてここにはこないんです。もっと郊外に行く笑。

社長

「他と違う」ということはそれだけで価値が高いと思います。

 

松崎

津久井さんの会社はデザイン会社ですが、クリエイターにとって尾道はどう映りますか?

社長

クリエイターにとっては堪らないのでは?笑
古いというのはネガティブに捉えられがちですが、逆にいうと歴史があるということ。
歴史は今から動かせない。だから魅力なんです。

松崎

不変の魅力ということでしょうか。

社長

クリエイターはゼロからイチを作るのが得意な人もいますが、ある素材を生かして進化させるタイプの人もいます。そういう人にとっては古いというのは、市長が言われたように「資源」そのものだと思います。

尾道の「価値」を教えてくれる移住者

 

社長

尾道にはチェーンが来ないというお話がありましたが、代わりに商店街を歩いていても個人店が多いですよね。

市長

全国から移住者がきて商店街に店を出すんです。家賃が安いし、駐車場がなくてもいいのでチャレンジできるんでしょうね。そして、古い街並みに新しい価値を与えてくれるのが移住者なんです。

社長

というと?

 

市長

地元の人にとって日常的な尾道の風景が、移住者の皆さんには魅力的に映るような場面が数多くみられます。
たとえば地元の人は海を見ても毎日のことだから感動はないし、柑橘がなっていてもそう。でも、外からきた人はレモンがこんなになっているのは見たことがない!となる。企業にしても外から来た企業が、地元の人に価値を教えてくれるんです。

新しい感性で「価値」を生み出す移住者たち

路地に佇む大胡(おおえびす)商店

 

市長

アイスクリーム屋の『からさわ』の裏に昔ながらの漁師町があって、そこに『大胡商店』というのがあります。

松崎

汁なし坦々麺のお店ですね。僕好きです。

市長

じゃろ?笑
あんなトイレもない小さな物件で店をやるというのは、地元の人は考えない。でも、(大胡商店があるから)路地に観光客が入ってくるんです。

松崎

普通は入らないような路地ですもんね。

市長

そういう機会を与えてくれるのが移住者の感性なんですよ。
商店街でいい匂いを出しているコーヒー屋さんがあるでしょう。『Classico』の夫婦も大分と山口出身です。
それから『パン屋航路』。よう名前を考えた笑。「暗夜行路」からきているんですが、あそこの夫婦も福山からです。

社長

尾道市には起業時に使える補助金などはあるのですか?

 

市長

尾道で起業する人に、事業所開設の費用の一部(上限50万円)を補助する制度(※)があります。
それに尾道では市内の金融機関、政策金融公庫、商工団体などみんな繋がっているので全員バックアップで応援しますよ!

※問い合わせ先は記事末

「暮らす場所」としての尾道の良さ

 

松崎

市長は向島(岩子島)出身ですが、暮らしという点で尾道の良さはどんなところにあると思いますか?

市長

やっぱり、人があったかい。人柄がいいと言うんですか。

 

松崎

わかります。あと、尾道は港町だったこともあり、オープンな気質があるような気がします。

市長

それは本当にそうで、気風なんです。昔から尾道の人の…。
それこそ、尾道の新展望台『PEAK』に携わってくれた建築家の女性は今、尾道に住んでいますからね。

松崎

展望台は完成しましたよね?笑

市長

新開(飲み屋街)のスナックのママさんに可愛がられて。「あの子にあれを食べさせてやらなきゃいけん」とか、家族ぐるみで付き合っているようです。

社長

そういうのは都会ではないですね笑

 

市長

尾道は街も小さいけど、人と人の距離感も近い。それがみんな心地いいのではないのでしょうか。

尾道で考えた幸せの意味

写真左/尾道の対岸にある向島の海にて 写真右/尾道ラーメンwith社員

 

松崎

今日、社長に向島をご案内したのですがどうでしたか?

社長

めちゃめちゃよかった。時間の流れかたが違うというか…。
東京というビルが当たり前の所から開放的な所にきてすごくよかったです。建物の高さって知らずにストレスを与えているんだなって。

市長

僕らも東京行くと落ち着かんよ笑。

 

社長

たしかに便利なんですけどね。僕は最近、便利さと人間の幸福度は関係ないんじゃないかと思うんです。むしろ便利ではない時代の方が幸せな人が多かったんじゃないかなぁ。
今日も渡船に乗って情緒があるなぁとか。そういう時に幸せを感じるんです。

松崎

渡船いいですよねぇ。僕も未だに感動します。

社長

東京だとそういったものが「便利」という名の下に削り取られていっている気がして。でも尾道には残っている。

市長

心の故郷のような感じでしょうか。

 

社長

おっしゃる通り、尾道は懐かしい感じがします。

滞在サポート制度「ちょっと広島県」
尾道でテレワークした感想

 

松崎

ビズアップは今回、3週に渡って計12名の社員さんが尾道でテレワークされましたが、業務に支障などはありませんでしたか?

社長

全くありませんでした。我々はもともと、コロナの前からネットで集客してオンライン完結で事業をやっていたのですが、驚くくらいなんのストレスもなかったです。

松崎

今回、広島県の『ちょっと広島県』という滞在サポート制度を使われたそうですがいかがでしたか?

社長

ホテル代やコワーキングスペース代、交通費などの9割(※)を補助していただいたので本当にありがたかったです。

松崎

全員分というのは大きいですよね。

社長

正直こんなにしてもらって大丈夫かなと笑。広島県の担当の方やONOMICHI SHAREの後藤さんが色々手配してくれたおかげで気持ちよく滞在させてもらいました。

※現在の助成率は5割。問い合わせ先は記事末

尾道は意外に「遊べる」。テレワーク拠点の一つになれれば

 

松崎

ビズアップのように今後、色々な企業がきてくれれば尾道はもっと盛り上がりますよね。

市長

尾道は企業が短期で楽しみにくるスポットになってもいいなと思っています。
瀬戸内を拠点にある時は尾道、ある時は四国という感じでバリエーションを持ったほうがテレワークに合っているんじゃないでしょうか。

社長

たしかにそのほうが面白そうですね。

 

市長

尾道はレンタカーでしまなみ海道を渡って道後温泉(愛媛)に行ったり、出雲とか玉造とか山陰にも行けます。愛媛の八幡浜まで行けばフェリーで別府(大分)に行くことだってできるんですよ。尾道は意外に遊べるんです。

松崎

愛媛から別府に行けるというのは知りませんでした。

市長

今はみなさん「渡り歩いていく」感覚なんじゃないでしょうか。気の赴くままに場所を変えて仕事をしたり遊んだり。1つの目的だけで人は動かないと思います。

社長

今の感覚はそうかもしれません。東京にいても働き方が多様化しているのはまざまざと感じますから。

市長

尾道だけに来てくれとは言わないので笑、拠点の1つとして選んでくれたら嬉しいなと思いますね。

 

撮影協力:ONOMICHI SHARE
インタビュー写真:正木孝則

尾道市の起業支援の問い合わせ先

尾道市役所 商工課
〒722-8501 広島県尾道市久保1丁目15-1 本庁舎1階
商工振興係
Tel:(0848)38-9182

広島県の『ちょっと広島県』の問い合わせ先

広島県商工労働局県内投資促進課
〒730-8511 広島市中区基町10-52
TEL:082-223-5151・223-5050
E-mail:syosokushin@pref.hiroshima.lg.jp

株式会社ビズアップ

ホームページ:https://www.biz-up.biz/

 

この記事を書いた人

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松崎敦史ANCHER編集長

世界一周中にできた不思議な縁で2018年、家族4人で向島に移住。東京で編集者として勤務→フリーライター→書籍出版→ウェブメディア編集長とおもにコンテンツ畑を耕してきた。35カ国以上を旅した元旅人。
株式会社世界新聞代表。
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