移住者

田舎こそ稼げる。「怪獣レモン」の仕掛け人に聞く尾道というマーケットの可能性
規格外のレモンを「怪獣レモン」と名付け、数々のメーカーとコラボし飛ぶ鳥を落とす勢いの株式会社瀬戸内百姓代表・山岡さん。
「稼げるからUターンした」と語る、独自のビジネス論。「尾道で”大谷さん”を生み出したい」の真意とは?

山岡由明(やまおかよしあき)

1991年生まれ/尾道市出身/株式会社瀬戸内百姓代表
2020年尾道にUターン。2021年に創業し「怪獣レモン」を生み出す

稼いでタワマンから見えた景色

ーー尾道にUターンされる前は大阪で人材派遣会社を経営していたそうですね。結構稼いでいたと聞きました。
友人4人でやっていて、タワマンに住んで何もやらなくても生活にも贅沢するにも困らないくらいは入ってきていました。

ーー大阪では何年くらい過ごすんですか?
3年半ですね。(事業の)立ち上げばっかりやっていましたが、あれが今の糧になっている気がします。新規しか行かないんで。

ーー人材の新規とかしんどそうですね笑
めっちゃ泥臭いですよ。

知り合いの3代目社長が「リピートばかりで面白くない」とか言うので「何甘いこと言ってんの?」と。

お客さんがいるって、売り上げがあるってすごいよって年下の僕から言われたら、逃げ場ないですよね。

ーーそれはつらい笑。話を戻すと、儲かっていた人材派遣会社を辞めたのはなぜ?
お金持ちになりたいと思って大阪に行って、新作のヴィトンが買えるようになったり、サラリーマンにはできないことが1つずつできるようになってきて。

旅行行ったり、おいしいもの食べたり、ブランド品身につけて飲みに行ったりというのが当たり前になってきたんですね。

ーー慣れてきたと。
お金持ちの世界ではブランド品を身につけていても、秋に春の新作を着ていると型落ちで「古い」となってしまう。

本当のお金持ちというのは、秋もちゃんと新作をバチッと着ている。

クローゼットの服が着れなくなるんですよ。これはキリがないって思ってきて。

ーー厳しい世界ですね。それで尾道に帰ることを意識しだしたと。
いや、僕としては出稼ぎに行っていた感覚なんですよね大阪に。なので、毎月か二月にいっぺんは絶対にこっちに帰ってきていて。

ーーでは、心は尾道にあったんですね。
そうですね。ずっとですね、それは。

ーー出稼ぎが終わったから帰ってきたと。
(大阪に行く前の)25歳の段階では、自信を持てる能力とかもなかったのですが、大阪で自分の中で自信になる実績をつけられたので、帰ってきてもなんとかなるじゃろうと。

だったら、地元で何かしたほうが、僕の気持ち的にもこっちの景色のほうが癒されるんで。同じくらい稼ぐならこっちのほうがいいわ、みたいな。

「儲かる」から尾道に帰った

——尾道で何をやりたいと思っていた?
農業系をやりたいというのは、一緒に会社をやっていた友人たちには伝えました。

何をやって何を売るとか決めてなかったけど、農業とか食べ物の世界がこれから来るんじゃないかと思いました。

——なぜ?
東京とか大阪とか、寿司屋とかがめちゃくちゃ高くなっていたり、いい食べ物には糸目をつけない層が増えてきているのかなと。

(都会では)尾道だったら別に珍しくもない「アコウ」とかが高く売られていて、なのに「まずい」。「尾道のアコウ食ってみ」みたいなことがしょっちゅうあったし。その値段と品質のギャップとかもメリットに感じたんでしょうね。

原料が身近に手に入るというのは、地方のよさだと。

——地方にアドバンテージを感じたと。
観光の面でも尾道みたいな景色は国内で見ても少ないですし。

ただ、尾道は課題として客単価が安かったり、宿泊客も少ない。みたいな状態がある中で、土産屋行ったら”ちりめん”とか20、30年前から変わっていない。いや、うまいですよ”ちりめん”。

ただ、ここ数年で尾道の観光はガッと裾野が広がっている気がして。若い、ちょっとおしゃれなカップルがうろついている。

その子らが土産屋行ったときに、買うものないんですよね。その選択肢になるような商品を今作っている感じです。

——山岡さんは常に尾道をビジネス目線で見ているんですね。
そうなんでしょうか?
けど儲かるけ、帰ってきとるんでしょうね、僕の中では。

——尾道を「住みやすい」と言う人はいるけど「儲かる」から移住したと言う人は知りません笑。
山岡:ね。景色がどうとか、住みやすいとか。いや、住みにくいから、普通に考えたら。

怪獣レモンの舞台裏。ブームははじまったばかり

怪獣レモンコラボ商品の数々

ーー尾道に帰ってきて何から始めた?
最初、広島市に近い海田町の中国人の唐辛子農家に働きに行きました。勉強なのでタダ働きでしたけど。

唐辛子儲かるんちゃうかなというので行って、いろいろ紆余曲折でレモンにたどり着いた。

ーーその紆余曲折が聞きたいです笑。レモンに目をつけたきっかけは?
最初はそこら辺のスーパーで売っているレモンをネットで売っていたんですよね。

ーーそれって…転売ですよね笑
で、気づいたのが地産のレモンでなくても、スーパーで売っているものがネットで売れるんです。

今はフリマアプリで「〇〇産」とか書いているものを、何の抵抗もなく消費者が買うんです。(本当かどうか)何の証拠もないじゃないですか。

ーーそういう世の中になっているんでしょうね。
そこが商機を感じたポイントなんです。

こりゃ地域のいいものだったら何でも売れるわと。尾道が生産量日本一なレモンとなればなおさら売れるわと。

ーーでも、普通のレモンを売るわけではなく、あえて”でこぼこ”のレモンを「怪獣レモン」として売ったのはなぜ?

形が悪いのは市場価格がグンと下がるんで、”やしい(安い)”ものを高く売るんが商売の基本なんで。

ツルツルのほうは農家も自分で売れるやろと。安いほうを買い取ってどう売るか考えるわ、って考えたのが怪獣レモン。

怪獣レモンブームは「出来杉くん」

写真左:八天堂とコラボしたくりーむパン 写真右:11月3日公開『ゴジラ-1.0』とのコラボも

——今、怪獣レモンは「ぷっちょ」とコラボ商品を出したり、以前は八天堂とクリームパンを作ったじゃないですか。キャラクタービジネスのようなイメージ?
おっしゃる通り、怪獣レモンはIP(知的財産)ビジネスです。ゲーム業界からも引き合いがきています

——今の怪獣レモンブームをどう認識しているんですか?集大成?
いえ、スタートよりちょろっと行ったところです。八天堂とかはわりと”出木杉君”な感じなんで。

(八天堂のくりーむパンは)ファミリーマート全店で扱われて、ぷっちょはセブンイレブンとローソンとJRですか。

ーーまさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
ちょっとやりすぎですよね笑。

でも、山岡さんは才能があるけぇ(できる)、とか思われるのはすごく嫌で。若い子に”やりゃできる”というリアリティを感じてほしいんです。

「ぷっちょボール 怪獣レモン味」でコラボしたUHA味覚糖本社前にて

ーー自分は才能ではないと。
僕はメディアに出たり外車も乗っているし、あいつはお金があるけぇ回るんや、みたいな感じで思われがちですけど、誰でもできることをやってるだけなんです。

ポルシェも僕、この1年で4万キロぐらい乗っているんですけど、それだけ人に会っているんでしょうね。話題になっているところに出向いて、実際どうなのか見ている。

自分がやりたいことや売りたいものを見つけたり、仕事になりそうな人に会ったり。その繰り返しなんです。

もちろんSNSもやってますけど、リアルのほうも結構動いてるんで。

——それを書かないとみんな誤解しちゃいますね。
表に出ているのは成功の上澄み、”プリンの一番上”だけで下の部分が結構でかいです。

僕、バッターボックスに立つ回数が多いだけで、多分0割バッターですよ。バッターボックスに2,000回立っているから60本打っている、みたいな感じですね。

尾道という「稼げる」土壌

ーー先ほど、「若い者に見せてやらなあかん」みたいなこと言っていましたが、真意は?
人間が育つのが一番見てて楽しいんです。

大阪時代に育てた奴とか大金持ちになっていったりして。「あんなんだったのにこんなに成功するのか!」みたいな驚きがあって。

僕も地元でそんな奴を生み出して、苦楽を共有できたら。それが一番僕も楽しいんで。

——都会じゃなくてこの尾道、地方でやるというのが山岡さんらしい気がしますね。
生まれた街ですしね。でも、尾道は恵まれていると思いますよ。

歴史をたどったら、大金持ちをいっぱい生み出しているんで。じゃけぇ、僕はモチベーションになっているというか、先駆者がいっぱいおるから、(自分が)”できん”わけがない。

そこに夢も感じてますよね。実際大金持ちになっている人が尾道にはいっぱいいるんで。

——歴史を見ても、尾道にはかつて豪商と呼ばれる人がいたり…。
山岡:江戸時代から北前船で荒稼ぎした人らがいるんで。今でもその名残がいっぱい残っている。

——それで言うと、尾道は老舗企業が多いですよね。
山岡:100年企業も尾道は、面積とか人口の割に多いらしいです。(そういう企業は)一般人的には目立っていないし廃れてきているイメージかもしれないですが、商業的に見たらそりゃ”じっとしとる”って思います。

——じっとしている?なぜ?
余裕なんですもん。儲かってるんで動く必要がない。みたいな会社めっちゃありますよ尾道は。

今通り過ぎたおっさん、バリ金持ちだよ、みたいなこと結構ありますから。みんな知らないけど。

尾道で”大谷さん”を生み出す

——次は山岡さんの番ですか?メディアでは「田舎で稼ぐロールモデルになりたい」とおっしゃっていますが。
新聞とかメディアでも同じことしか言ってないんですけど、それに尽きますよね。

今、都心部に行ってくすぶっている奴がたくさんいると思うんです。尾道とか瀬戸内の人間が。

そんな奴がこっちに帰ってきて、背中を押せば花ひらく奴もおると思うんです。その中から”大谷さん”みたいなのが生まれる可能性もあるので。

ーー地方のスタープレイヤーが。
そう。花巻東なんか、”大谷さん”は一生のモチベーションでしょう、あそこにいる野球部の子らなんかは。「俺らもなれる」って勝者のマインドじゃ無いですけど。

(尾道でも)そういう”渦巻き”を作ってあげられるかがポイントだと思います。5年か10年か20年か分からんけど、そうしたら大きく変わって行くでしょうね。

怪獣レモン

公式サイト:https://www.kaijulemon.com/
instagram:https://www.instagram.com/yamachanno808/

山岡さんおすすめのお店:尾道ラーメンしょうや本店

某ネットのランキングでもずっと1位で最近きてますよね。店主の麥田さんに初めて会った時、「この人はレジェンドになる」って思いました。ラーメンもうまいです。

 

この記事を書いた人

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松崎敦史ANCHER編集長

世界一周中にできた不思議な縁で2018年、家族4人で向島に移住。東京で編集者として勤務→フリーライター→書籍出版→ウェブメディア編集長とおもにコンテンツ畑を耕してきた。35カ国以上を旅した元旅人。
株式会社世界新聞代表。
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