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24歳で東京の上場企業を辞めて福山市へUターン。女性経営者が地域の学生とともに見つめる未来
ANCHER初となる福山のキーパーソンインタビュー。SNSでの歯に衣着せぬ発言や精力的な学生支援活動など、多方面で活躍する女性経営者・角田千鶴さんにお話を聞いてきました。

角田千鶴(つのだちづる)さん

(有)山陽不動産取締役副社長/一般社団法人スタイリィ理事
2003年東京から福山へUターン移住。

福山で学生支援を行う理由

15歳以上24歳以下を対象とした創業体験イベント「Sta-sh」

ーー角田さんには山陽不動産の副社長ともうひとつ、「学生支援」という顔があると思いますがどんなことをやっているのですか?

学生の創業体験イベント「Sta-sh」、中高生の居場所づくり「STUily」、ビジネスコンテスト「BUSICON」などをやっています。
BUSICONは3回目、Sta-shは6回目、STUilyは福山市内に9カ所あります。

ーー角田さんのSNSを拝見していると、頻繁にプロジェクトのアップデートがされますね。
発信は30代になってから11年間毎日続けています笑。

ーー学生支援に関してはふくやま社中(現一般社団法人スタイリィ)という団体でやられていますね。
もともとは私が代表を務める「山陽管理」という不動産事業を行う会社で学生支援をやっていました。
取り組みを進めると福山には学生達を支援したいという人がたくさんいることが見えてきたのですが、「山陽管理」という会社の一事業として映ってしまうのは、支援の手を止めてしまう要素になるのかも知れないと感じました。法人の枠を取り払って学生支援を行える様にしたかったんです。

ーーそれでふくやま社中を作ったと。
同じような志を持っていた小林史明さん(現顧問)と 2020年に立ち上げました。今は私の他に1名の理事がいます。

ーー本業もある中、そこまで学生にリソースを投下する理由は何ですか?
厳密に言うと学生ではなく、高校生なんです。

本業で起業家支援ビルを運営しているのですが、そこに近くの大学生が見学にきてくれるんですね。
それで学生さんと話をしてみてわかったのは、大学生じゃ遅いんです。

ーー何がですか?
あの子たち(大学生)は起業するつもりはないんです。

私が起業した方がいいよと話しても、大学では遅い。
(私たちが運営する)ビジネスコンテストとかにも出てくれるんですけど、(優勝した)実績を持って就職しちゃったりする笑。

ーーそれで高校生なんですね。
大学生にとって「起業は危ない」なので笑。
でも私は起業家精神って大事だと思うんですよね。就職したとしてもチャレンジしないといけないじゃないですか。

SDGSとか言われますけど綺麗事だけじゃダメ、稼がないと継続しない。
若い時からビジネスの視点で問題解決するということをしていかないといけない。

上場企業を辞めて福山にUターン

ーー角田さんは上場企業を辞めて福山にUターンされたそうですがその理由は?
全然面白くないけどいいですか?

(会社は)私が入社した時は東証2部で翌年1部上場を控えていました。
そして2年目に私、会社の同期と結婚したんです。

でもその会社には(結婚したら)どちらかが辞めなきゃいけないという(暗黙の)ルールがあって。

ーーそんなことあるんですね…。
24歳で無職になって専業主婦になって、でも周りはみんな働いているじゃないですか。

初めて人生にストップかけられたような気がして。

そんな時にふと、祖母が始めた会社のことが浮かんで。「誰が継ぐんだろう?」と思ったんです。

ーー決まっていなかったんですね。
それで、兄と妹に聞いてみたら「継がない」とのことで…。

私が継がなきゃ!

って思っちゃったんですよね。

ーー急転直下ですね笑
夫は東京の人なのですが、夫の家族はびっくりしていました。

結婚式が終わって数ヶ月後に急に「広島に帰る」と言われた訳ですからね。夫の家族も「騙された!」みたいな笑。

ーーめちゃめちゃ面白いです。旦那さんの反応は?
これから子供ができたら、君のお母さんの近くの方が暮らしやすいだろうって。

でも仕事も超ブラックだったので若いから頑張れましたけど、ずっと続けていくのは無理だよねとは話していました。

Uターンしての「誤算」

創業者(祖母)、現社長(母)、角田さん。福山城と3代女性経営者

ーーそれでUターンして山陽不動産に入社されたと。
母が社長をしているんですけど当然、「よく帰って来てくれた!」と感謝されると思っていたんですが…。

母から「この会社は潰すつもりだったのよ。だからあなたたちの席はない」と言われたんです。

ーーショッキングですね。
「事務所は使っていいけど、自分達が取ったお客さんだけを給料にしなさい」って笑。

でも、私たちも若かったんで「できるし!」とやってみたんです。

ーーやってみていかがでしたか?
私は中学・高校と福山を離れていたので人脈もなかったし…。
会社も赤字で借入できないことが分かって、本当に自分達で稼がなきゃいけない状況になっちゃって。

お金もないのでポスティングからはじめました。
他の不動産屋さんから紹介してもらった物件をまとめて新聞みたいなものを作ってそれを

ーーそれは大変ですね。
ホームページもホームページビルダーを買うお金がなかったので、HTMLを勉強して自分で作ったり。

そこに物件を載せたりしていたら、少しづつお客さんが来てくれるようになって。

ーー継いだというより新しく起業した感じですね。
まさに笑。

でも、今思えば母が私たちに取引先を使わせなかったことで、リセットできたんですよね。

ホームページなどで情報発信していくやり方もあの時にできて、ここまで積み上げてこれたので。
あのままオーナーさんとか業者さんを引き継いでいたら、今頃どうしよう?となっていたと思います。

なので結果オーライです笑。

女性経営者が思う福山の課題

ーーUターンしてみて福山の課題はどんなところにあると思いますか?
福山に限らないかもしれませんが、(街にいる)大人の考えとか生き方がお手本でなくてもいいと思うんですよ。それが正解でもないと思いますし。

経済界のおじさまたちが福山を「自分の街」と言ったりするのを耳にするんですが、権力を持ってしまうとやっぱり自分たちのためになってしまうんだなと。

「若い人が活躍」とか言いながら、若い人の意見は全然届かなくて…。

ーーそういった側面はたしかにありますね。
美術館にはおじさまが見たい展示が来るし、イベントだっておじさまが飲みたいから日本酒のイベントばかりだし笑

もう少し若者の意見を聞いて、裁量権を与えるくらいの心にゆとりがあって欲しいというか…。

意見を言っても(大人が)聞いてくれないとか、聞いてはくれたけどやってくれないとか。そういう小さな積み重ねがあって、若者は街を出ていくんだと思います。

ーー心のゆとりがないというのは核心だと思います。
ゆとりもそうですが、(若者への)リスペクトがない。

(私が)学生と色々やっていると「学生にアイディア出させてやってもいいよ」なんていう社長がいるんですよ。

だからあなたの会社には若者が来ないんだよと思います。

ーーでも、そんな姿勢だとこれから先どう考えても厳しいですよね?若者はどんどん減っていく訳で。
自分の代で会社を閉めるからいいのかもしれませんが、これからは変わらないと絶対無理だと思います。

うちは12人の小さな会社ですが、20代が3人います。動画とウェブデザインが担当なので50代の人ができないことが当たり前にできる。だからこそ互いにリスペクトしないとチームとして仕事できないじゃないですか。

ーーリスペクト大事ですよね。
地方はちょっとコアなメンバーが強すぎて居づらいので、私としては学生も女性もみんながフラットになれるといいと思います。

移住者に期待すること

ーーこれから備後エリアに移住する人に期待することは?
「福山はこうで東京はこう」みたいなのはいらなくて、(移住者は)地方に来て感じたことをしがらみにとらわれずできるのが強みだと思うんです。

ーー地元の人にとっては当たり前なことも移住者にとっては新しかったりします。
そう、(東京出身の)私の夫は福山駅で新幹線を降りた瞬間、「山近っ!」って言ったんです。

そういうのって初めて来ないとわからないし、それがイコール地域の良さだったりすることもある。なので移住者が自分らしく発信したり、感じたことを作り上げていくと福山がもっと面白くなっていくと思います。

一般社団法人スタイリィ

https://fukuyama-shachu.com/

この記事を書いた人

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松崎敦史ANCHER編集長

世界一周中にできた不思議な縁で2018年、家族4人で向島に移住。東京で編集者として勤務→フリーライター→書籍出版→ウェブメディア編集長とおもにコンテンツ畑を耕してきた。35カ国以上を旅した元旅人。
株式会社世界新聞代表。
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